仮面の下に瞳があることが不思議だ。
色も知らないその一組の眼に、見詰められることを想像する。
眠りにつく前にいつも、儀式のように。 幾日も幾日も幾日もそれこそ時間の感覚も無いほどに壁を見詰めていたことを覚えている。 それから俺の頬に触れた指先を。 温度のない、手袋越しの。 その次に浮かぶのはシミュレーションマシンに座ってモニターを見ている自分だとかコクピットからの景色だとか宇宙空間の瞬かない星だとかの断片で、それがもう何時の間にか当たり前になってしまった。 連続した記憶というものはもう持ち得なくて、それが当たり前ではないのだということを知ったのは最近のことだ。 今となってはどうしたらいいのかもわからないが。 記憶なんてどうせ見えやしないものだ、とそう思い込む。 それ以外に方法なんて知りはしない。 今目の前に居る人物は目に見えるから、だから大事なのだ。 と、そう思う。 記憶の断片の中にはいつも彼が居て、瞼の向うの網膜が映し出す現実世界の中にも彼が居る。 触れられた頬に感じた指の感触は、いつまでも鮮明で。 機械の塊の中で考える。 モニターの中の位置関係、実践すべき作戦の進行、機体の損傷、指の感触。 身体は勝手に動いて馬鹿でかい機械はエネルギーをたっぷり放出しては障害物を粉砕していく。 瓦礫となっていく街に何の感慨もなく、それはただの無機物でその中にほんの少し前までそれぞれの生活空間があったのだとは何だか信じがたい非現実で、スライドショウみたいに移り変わる景色の中、視界を横切る友軍機。 鋏で切って貼ったような繋がらない情景の中に、気付けば混じっていた仲間があれには乗っている。 あのふたりにも、与えられたのだろうか。 あの指は。 シミュレーションマシンで敵機を全滅させるとネオが唇を柔らかく歪める。 面倒な作戦内容を一度で諳んじて見せるとネオが頷いてくれる。 50メートル離れた的に右手に握った銃から弾丸を発して急所に命中させて見せるとネオが上達したなと云ってくれる。 実戦に出て敵艦を沈めて見せるとネオが。 ネオが。 仮面を取ったところは見たことがなくてだから未だに俺は彼の顔なんか知らなくてでも彼があの指の持ち主なのだと知っている。 思い出すあの日の指にはその上が無く、腕も顔も髪もどんなもの姿をしていたのか知らないが、それは記憶ではないしまた勘だとかそんなものでもない。 ただ知っているだけだ。 それでもあの指があんまり確かなものだから。 だからなんだか特別なように思ってしまうのだ。 俺に触れた指には、生きているなら当たり前だが続きがある。 人間は指だけでは存在していないから、だから指から続く腕とそれを支える身体とその下の脚とそれから身体の上の頭と。 指の持ち主は彼に違いないのだから、指に付随するそれら全ても間違いなく彼のものの筈だ。 しかしそれはなんだか掴み所のない曖昧さでもやもやと胸にわだかまる。 確かめたいと思う。 あの仮面でいつも隠されている部分を知ることが出来れば。 そんなのは言い訳に過ぎねえよ。 さわってよ |