「2年は長かったかい」
そう問い掛けると2本の腕の下の愛しい子供はよく分からないといった顔で首を傾げて見せた。 そのことに少しの落胆と大きな安堵を覚える。 薄い肩に置いた自分の両手を、僅かに上に滑らせる。 手袋の薄い皮越しに、血が静かに脈打つのを感じる。 今この手に力を込めればこの可愛い子供は。

男親は息子よりも娘を可愛がるものだという。 血の繋がった子を持ったことはまだなくても、その気持ちは充分に理解できる。 滑らかな肌と柔らかな髪と黒目がちの瞳に違いはなくても、その性が自分と同じか異なるかで、愛しさというのものは随分と変わってくる。 それをこんな風に実感することになるとは思わなかったけれども。 強化ガラスの揺り篭の中で眠る3人の子供たちは皆それぞれに愛らしく大切に思う。 それでもやはりいちばん最初に手に入れた、このちいさな女の子は誰よりも可愛い。 桜貝のような爪とか、皮膚の1枚下で直ぐに指に触れる華奢な鎖骨だとか、そんな自分の持ち得ない、女の子特有のもの。 それは情欲よりもむしろ庇護欲を掻き立て、同時にそれら全てを己の手で握りつぶしてしまうことを夢想する。 どこまでも従順に自分を見上げてくる瞳が、穢れることなくあればいいと思い、それからその瞳が絶望に見開かれる様を想像し、そして己の罪を悔いる。 そこまで思い自嘲する。 何に悔いるというのだ? 信じても居ない神にでも? かつて自分があの血に塗れた宇宙に引きずり込んだ少年に? それともどこまでもヒトであろうとした懐かしい恋人か? まさか! そんな馬鹿げたこと。 ただすこしだけ、血に汚れた身体に走る刺すような痛みの正体が。 あの優しい腕の中の安らぎとか、そんなものを持っていた頃の自分だとか、いつか。

可愛い可愛い娘は丸い瞳を薄い瞼に隠して眠っている。 眼球がきょろきょろと動いているようなのは、夢でも見ているからだろうか。 この可哀相な子供が見るのは一体どんな夢だろう。 かつて一時幸せだった頃の幼い自分の姿か? それともありもしない優しい未来? 大丈夫、怖いことは全部忘れさせてやるから。 怖いことなんか、なアんにもないんだよ。 蓋を開けた揺り篭の中で、黄金の髪に手袋を外した指先を滑らせた。 シィツの上に散った細い髪。 絹糸のように柔らかく、すこし癖のある感触だけが、悩み苦しみながらも聖母のように全てを受け入れたかつての恋人に、似ている。 指先に触れる穏やかで暖かな吐息に、考える。 この薔薇の蕾のような唇と尖った鼻をこの手で覆ったならば、この子供はどんな顔をする? 息苦しさに覚醒し、自分にとって唯一の親の顔を見てどんな表情をするだろう。 時間の感覚さえあやふやな日々の中で、たったひとり信じた者の顔を見て。

彼女にいつか会うことがあったなら、尋ねたいことがある。



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