ぼくらは死体置き場に住んでいる。

僕の履くブーツの下には死体が積み重なっている。 死体、死体、死体、で地面が見えない、というよりも死体の下に地面があるのかどうかすらあやしく感じる。 此処は死体で出来ているのだ、きっとそうなのだ、他にはなにもないのだ。 無数の死体、死体、死体。死体。 ついさっき死んだばかりのような、まだ美しい死体もある。 血の気を失った青い肌以外は、生きているヒトとなんら変わらない姿をしている。 そうかと思えば乾いた骨を露出させて、一部がミイラ化した死体もある。 眼球が入っていたはずの暗い穴はぽかりと深い。 服を着ている死体もある。 何も身に纏っていない死体もある。 蛆の集る死体がある。 赤黒い腸を露出させた死体がある。 死斑が浮いた死体がある。 首のない死体がある。 足が千切れかけた死体がある。 刺青の彫られた死体がある。 巨大なダイアモンドの指輪をはめた死体がある。 男の死体がある。 女の死体がある。 老人の死体がある。 子供の死体がある。 見覚えのない死体がある。 見覚えのある死体がある。 ロックオンの死体がある。 スメラギさんの死体がある。 刹那の死体がある。 留美の死体がある。 ティエリアの死体がある。 僕の死体はない。 僕は死体の上を歩いていく。 死体を踏んでいくのは気が進まないけれど、ここには死体しかないのだから仕方がない。 柔らかい肉の上も、硬い骨の上も、ぼくはブーツで踏みつけて歩いていく。 死体以外に僕に見えるのは真っ暗な空だ。 あれはきっと夜の空だ。 宇宙で見る世界だ。 星が煌かない。 死体の上で星は瞬きせず輝き続ける。 正面から誰かがやってくる。 暗いけれど視界は明瞭なこの死体置き場を、僕と同じように死体を踏みつけて歩いてくるのはハレルヤだ。 やあハレルヤ、久しぶりだね。 僕は言った。 ハレルヤは舌打ちをして足元の死体のひとつをブーツの爪先で蹴飛ばした。 腐っていたらしいその腕は肘からぼろりと崩れて落ちた。 ハレルヤ、そんなことしちゃあだめだよ。 ハレルヤは僕に手を伸ばす。 手はまっすぐに僕の首に向かってくる。 ハレルヤの手が僕の首に当てられる。 僕はぞっとする。 ハレルヤの手に体温がないからだ。 ハレルヤの手は冷たい。 それは、それは死者の温度だ。 ハレルヤ、君もここに山と詰まれた死体とおんなじだって言うのかい。 ハレルヤ。 君だけは。 僕の首に当てられたハレルヤの手は、いつの間にか深く食い込み気管を圧迫する。 冷たい指の腹が、薄い首の皮を突き破るのではないかというほどその力は強い。 苦しいよハレルヤ。 声は出ない。 立っていたはずの僕はいつの間にか死体を背に倒れていて、僕の首を絞めるハレルヤ越しに、瞬かない星が見える。 ああ、ハレルヤ、どうして君がそんな悲しそうな顔をするんだい。

(悲しいのは、僕のほうなのに)

僕の夢はいつもここで終わる。 そしてときどきは、目が覚めていつもの夢だったのだと気付いても、まだ僕の体があるのはあの死体置き場のような気がしている。 僕は白いシーツに包まれて、ベッドから降りればそこには死体なんてひとつも転がっては居なくて、硬い床がしっかりと僕の足を受け止めてくれるというのに。 ああ、だって、ハレルヤ。 僕たちはあの世界でなら触れ合える。 それなのに、どうして君が。 どうして君の手は冷たくて、君が僕らの世界を終わらせようとしちゃうんだろう。 ねえハレルヤ、僕と、君と。


世界はふたりだけのもの